いまさら感が否めませんが、せっかく読んだのでレビューします。
みなさんご存知かもしれませんが、間違いなく良書です。
1.本書との出会い
何から書けばいいのか・・・
まず、この本との出会いは、宮崎駿監督のアニメ「君たちはどう生きるか」を見て、作中で主人公に亡き母が残した本として出てきたことです。
もちろん、この映画のタイトルそのものにもなっていますから、存在自体はもちろん知っていたのですが、実際に読むまでには至りませんでした。
しかし、この映画の中で、冒頭で母を亡くした主人公が、母から託されたこの本を見つけて、読んで、明らかに人生の選択をする様子を見て、この本の中身がとても気になってしまったのです。
おそらく、私と同じようにこの本を手に取った方は少なくないのでは?
母が子に伝えたかったことは何だったのか、主人公がこの本から何を受け取ったのか、とても気になりました。
2.内容はまさにタイトルのまんま
この本は、父を亡くしたコペルくんに起こった出来事とコペルくんが感じたことに対して、コペルくんの母の弟である叔父さんとの会話や手記で構成されていました。
この叔父さんの書いた手記がとても良いんです。
コペルくんに、どういう大人に成長してほしいのか、様々な観点から巧みに伝えています。
そして、このコペルくんがとても素直でまっすぐに考え、受け入れていく様は、育ちの良さだけでなく、ご両親や周りにいる大人が、きちんとコペルくんに人として相対しているからだろうと思います。
コペルくんの母、コペルくんの叔父さんは、決してコペルくんを子ども扱いなどしないのです。
ひとりの人として教え、諭し、導いていきます。
そんな大人たちの中で、コペルくんもものの味方や考え方を覚えて、最後にはこう記します。
コペルくんはこういう結論を出しました。
さぁ、このお話を読んだみなさん、
君たちはどう生きるか?
という、結びになっている。
そりゃ、自分なら・・・って、つい考えてしまいます。
3.永遠のテーマ「いじめ」
この本の根本にあるテーマはやはり、「いじめ」なのだと思う。
貧富の差や、能力の差、地位など、人を分類するすべての要素において、いじめにつながる階級の差が無数にある。
これそのものはどうしようもない。
貧しいものは貧しいことを恥じたり、
富めるものは貧しいものより優越感を感じることもあるかもしれない。
しかし、そのことで本来は恥じる必要もないし、蔑む理由もない。
人はどんなに分類されようとも、同じように地球上に生き、誰かしらに何かしらの影響を与えたり与えられたりして生きている。
それを知らずに、生きることのなんと恥しいことか。
人にどう見られるかを気にするばかりでは「立派に見える人」にしかなれない。
肝心なのは、人間の立派さがどこにあるかを見極めること。
叔父さんはそうコペルくんに教えます。
こんな叔父さんがわたしの周りにもいてくれたらと思わずにはいられません。
学校で教わることを鵜呑みにして、言われたとおりに行動し、教わった通りの人間になることが立派なことではありません。
勉強が出来ることや、集団生活ができることが立派なわけではないのです。
これに皆が気づくことが出来れば、いじめのない世界が実現するかもしれません。
こういうことを直接的に教えてくれる授業があってもいいのに。
4.偉人に学ぶこと
叔父さんはコペルくんに充てて書いた手記によく、偉人の話を盛り込みます。
コペルニクスの地動説、
ニュートンのリンゴ、
ナポレオンの生き方、在り方
いろんな観点から、生きるということを解説しています。
これがとても面白い。
物理の話からこういう結末になるのか。
経済学をこういうふうに読み解くのか。
といった具合です。
どれもが必要なエピソードで、どれも納得の解説です。
ここでは詳しく触れませんが、ぜひ、一読してほしい。
5.本当の勇気とはなにか
この本の終盤、コペルくんは「いじめ」の現場に立ち会うことになります。そこでは、コペルくんの目の前で上級生から友人がコテンパンにされてしまいます。しかし、コペルくんは怖くて一歩も動けません。勇気がなかったのです。
この体験はコペルくんに大きなショックを与えます。
翌日から熱を出し、2週間もの間、学校へ行けません。
その友人たちがもう自分と仲良くしてくれないのではないか、自分を軽蔑しているのではないかと考え、友人と再び会うことを恐れます。
この時、叔父さんも、コペルくんの母も、コペルくんのことを蔑むことも、怒ることも、慰めることもしません。ただ、受け入れてあげるのです。
この経験から何を学ぶのか、コペルくんをやさしく誘導してあげるのです。
いじめを止めることが出来なかったのは、もちろん勇気がなかったから。
後悔することを止めることはできません。
しかし、この出来事から何を学び、これからどういう生き方をするのか、自分で選ばせたのです。
コペルくんは、友人に向けて手紙を書きました。
自分に勇気がなかったために助けられなかったこと、それをとても悔やんでいること、そして、これからも友人でいたいということを、正直に誤って、伝えました。
コペルくんは手紙の返事が来るまで生きた心地もしません。
しかし、数日後、その友人たちがお見舞いに来てくれます。
満面の笑みで、あのいじめのあったあの日からの出来事を話してくれたのです。
コペルくんが寝込んでいる間に状況は一変して、いじめを行った上級生には罰が下り、友人たちは正々堂々と、いじめに打ち勝っていました。
そして、勇気が出なくて助けに入れなかったコペルくんのことも責める様子もありません。
コペルくんと友人たちは、許しあって生きることを決断したのです。
本当の勇気とは何か。
この子たちが教えてくれます。
わたしの言葉で書いても伝えられる自信がないので、ぜひ、この本を読んでみてほしいと思います。
口語が少し古いので、現代版をどなたか書いてくれるともっと人に紹介しやすいんですけどね。
6.宮崎駿監督の思い
どれほどの思いを込めた映画だったのか、あの映画からくみ取れる人は多くはないかもしれない。
わたしは2度映画館に足を運んだが、やはりこの本を読むまで読み取れなかった部分が多くあるように思う。
今もなお、まだ理解できない部分もあって、さらにもう何度か見返したいと思っています。
監督の思いを受け取った私たちは、これからどう生きようか。
とても難解なんだけど、やっぱり子供にも見てほしいって思います。
子供のころにこの本に出合いたかったって、私自身が思うからです。