山形県鶴岡市――人口わずか11万5千人ほどの小さな地方都市に、世界的に有名な建築家・妹島和世(SANAA)の設計による文化会館「荘銀タクト鶴岡」が建てられました。
完成当初から「山並みに呼応する屋根の群れ」「世界的なデザイン建築が地方に誕生」と話題を呼び、建築好きやデザイン好きが世界中から訪れるランドマークとなっています。
建築家の端くれとして、大それた思想があるわけではないけれど、たまたま近所にできた世界的な建築物を見て、感じて、思うことを綴ります。
1. 世界的建築家の手による鶴岡市文化会館
荘銀タクト鶴岡は、世界的に有名な建築家・妹島和世(SANAA)が設計した文化会館。
デザインは斬新で、音響は最高水準。千住博による緞帳など芸術性も備え、まさに「鶴岡市の顔」と言える建築だ。建築ファンが世界中から訪れるのも納得です。
建物については以下の記事で詳しくまとめているので参考にどうぞ。
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世界的建築家が重視するもの、地域建築家が重視するもの
世界的に名を知られる建築家の多くは、デザイン性や造形美、コンセプトの独自性を重視します。
驚きを与える屋根の形状や、光と影を操る空間、芸術作品のような外観――こうした「作品性」が、建築を世界的に評価させるのです。
一方で、地域に根ざした建築家が日々大切にしているのは別の要素です。
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地域性への適応
豪雪・強風・湿度といった気候条件、景観や歴史との調和。 -
機能性と使いやすさ
動線、断熱、採光、メンテナンスのしやすさ。 -
コストと維持管理
建築費だけでなく、修繕費・光熱費・ランニングコストを徹底的に考える。 -
安全性と耐久性
地震・雪害・強風に耐えられるかどうか。 -
施主への説明責任
メリットだけでなく、弱点やリスクも正直に伝える。
つまり、世界的建築家は“芸術としての建築”を追求し、地域建築家は“暮らしと持続性の建築”を追求する。
この二つは対立するものではなく、本来は補完し合うべき価値観だと、私は考えています。
荘銀タクト建設の裏側
荘銀タクトは、確かに世界的に評価される建築です。
しかし建設の過程には多くの困難がありました。
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当初45億円の計画が、最終的には約97億円に膨張
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入札不調が3度続き、工期は延長に次ぐ延長
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施工会社泣かせの複雑なディテール
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そして工事中から続く雨漏り問題
こうした状況は「芸術建築」と「実務建築」のギャップを象徴しているように思えてなりません。
雪国の現実と地域性
鶴岡市は日本海から吹き込む強い北西風と豪雪にさらされる土地です。
横殴りの風雪は屋根や壁を容赦なく叩きつけ、冬には雪下ろしや凍害対策が欠かせません。
だからこそ、地域建築家たちは日々こう考えます。
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いかに雪下ろしを楽にできるか
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雨漏りやすがもりを防げる形状、方角はどれか
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修繕費や維持費を最小限にできる素材は何か
建築は建てて終わりではありません。
長く美しさを保ち、利用者に安心を与え、メンテナンスコストを抑えることこそ真の建築家の力量だと私は思います。
建築家の説明責任とは
建築家の役割は、施主の希望を形にするだけではありません。
むしろ施主が気づかないリスクや地域性を分かりやすく説明し、より良い選択肢を提示することこそが本分です。
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デザインの魅力
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施工や維持の難しさ
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地域特性への適応の必要性
これらをおざなりにしてしまったとき、トラブルや訴訟につながる。
私はそう考えています。
それでも荘銀タクトは価値ある建築
繰り返しますが、荘銀タクト鶴岡は素晴らしい建築です。
音響は世界最高水準、デザインも独創的で、間違いなく「鶴岡の顔」と呼べる建物です。
ただしその裏で、市民が永続的に修繕費を負担し続ける建物にもなってしまった。
もし地域建築家の知恵が加わっていたなら――もっと愛され、持続可能な「市民のためのホール」になったのではないかと悔やまれます。
おわりに
これは批判ではなく、ひとりの建築家の独り言です。
荘銀タクトは、「建築とは何か」を考えさせる存在として非常に示唆的な建物だと思います。
これからデザイン建築を志す若い建築家には、ぜひデザインの先にある「地域性」「耐久性」「メンテナンス」まで多角的に目を向けてほしい。
新素材を取り入れる挑戦も素晴らしいですが、その活かし方にはTPOがあるはずです。
建築は地域とともに生きるもの。
荘銀タクト鶴岡は、そのことを私たちに強く問いかけているのかもしれません。
今日の記事はここまで。
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